未来を創るグリーン技術

直接空気回収(DAC)技術:脱炭素への新たなフロンティアとビジネス戦略

Tags: DAC技術, 気候変動対策, 脱炭素経営, サステナビリティ, グリーン投資

はじめに:脱炭素社会実現に向けたDAC技術の重要性

気候変動問題への対応は、企業経営において喫緊の課題となっています。パリ協定の目標達成に向け、各国・各企業が温室効果ガス排出量削減に取り組む中、排出量ネットゼロ(カーボンニュートラル)の実現には、排出削減努力に加え、大気中からすでに排出されたCO2を除去する技術(Carbon Dioxide Removal: CDR)の活用も不可欠であるとの認識が広まっています。

中でも、「直接空気回収(Direct Air Capture: DAC)」技術は、排出源によらず大気中のCO2を直接捕捉できる可能性を秘めた技術として、世界的に注目を集めています。本記事では、DAC技術の概要、ビジネス上の機会と課題、市場動向、関連政策、そして企業がこの技術を戦略に組み込む上での留意点について、企業のサステナビリティ戦略責任者の皆様にとって有益な情報を提供することを目指します。

直接空気回収(DAC)技術の概要

DAC技術は、巨大なファンなどを用いて大気を装置に取り込み、特殊な吸着材や化学溶液を使って大気中のCO2を分離・回収する技術です。回収されたCO2は、地中深くに貯留されるか(DAC+S: Storage)、あるいは合成燃料、化学品、建築材料などに利用されます(DAC+U: Utilization)。

主要な方式としては、以下の2つが挙げられます。

いずれの方式も、大気中のCO2濃度は約0.04%と非常に低いため、大量の空気を処理する必要があり、多大なエネルギーを消費することが大きな課題となっています。そのため、DAC技術の有効性を最大限に引き出すためには、再生可能エネルギー由来の電力や熱を活用することが不可欠となります。

DAC技術がもたらすビジネス機会と潜在的リスク

DAC技術は、企業の脱炭素戦略において新たなビジネス機会を創出しうる一方で、特有のリスクも伴います。

ビジネス上の機会

潜在的なリスク

市場規模、成長予測、政策動向

DAC市場は現在黎明期にありますが、脱炭素目標達成への貢献に対する期待から、急速な成長が見込まれています。国際エネルギー機関(IEA)などの予測では、ネットゼロシナリオにおいては、2050年までに年間数億トンから十数億トン規模のCO2をDACによって除去する必要があるとされています。

市場成長を牽引する主要な要因としては、以下の点が挙げられます。

主要な技術開発企業としては、スイスのClimeworks(固体吸着法)、カナダのCarbon Engineering(液体吸収法、Occidental Petroleumと提携)、米国のGlobal Thermostatなどがあります。これらの企業は、実証プラントや商業規模プラントの建設・稼働を進めています。

企業がDAC技術を導入・活用する上での留意点

企業のサステナビリティ戦略や投資判断においてDAC技術を検討する場合、以下の留意点を考慮することが重要です。

まとめ:脱炭素戦略におけるDAC技術の展望

DAC技術は、脱炭素社会の実現に向けた重要なツールとして、今後ますますその存在感を増していくと考えられます。特に、航空・海運など、排出削減が困難な分野における残余排出量のオフセットや、カーボンネガティブを目指す企業にとっては、不可欠な技術となる可能性があります。

現時点ではコストやエネルギー消費などの課題が存在しますが、技術開発の進展と政府・企業の投資拡大により、これらの課題は克服されていくと期待されています。企業のサステナビリティ戦略責任者の皆様におかれては、DAC技術を単なる研究開発段階の技術としてではなく、自社の長期的な脱炭素ポートフォリオや新たなビジネス機会として、その動向を注視し、戦略的な検討を開始することが推奨されます。

DAC技術への投資や参画は、将来の炭素社会におけるリスクを低減し、新たな市場での競争優位性を確立するための重要な一歩となり得るでしょう。技術的な課題、市場動向、政策支援などを総合的に評価し、自社にとって最適な形でこの新たなフロンティアにどのように関わっていくかを検討する時期に来ています。