未来を創るグリーン技術

未来を創るCCUS技術:市場動向、政策、そして企業の投資戦略

Tags: CCUS, 炭素回収, 気候変動対策, サステナビリティ戦略, 投資

気候変動対策におけるCCUSの役割と企業の戦略的重要性

地球温暖化への対策として、温室効果ガス排出量の実質ゼロを目指すカーボンニュートラルへの移行が世界的に加速しています。この目標達成のためには、再生可能エネルギーの導入拡大や省エネルギー化に加え、産業活動から排出されるCO2を大気中から直接除去・削減する技術が不可欠となります。その中核を担う技術の一つとして、近年注目度を高めているのが、炭素回収・利用・貯留(CCUS:Carbon Capture, Utilization and Storage)です。

CCUSは、製鉄所、発電所、化学工場など、CO2を多く排出する産業施設から発生するCO2を回収し、資源として利用するか、あるいは安全な地下深くに貯留する一連の技術を指します。この技術は、どうしても一定量の排出が避けられないハード・トゥ・アベイト(Hard-to-abate)産業における排出削減や、大気中のCO2を直接回収するDAC(Direct Air Capture)技術と組み合わせることで、ネガティブエミッション(大気中のCO2濃度を削減すること)を実現する可能性も秘めています。

サステナビリティ戦略を推進される企業の皆様にとって、CCUS技術は単なる環境対策に留まらず、将来のビジネスモデル、競争力、そしてリスク管理に深く関わる重要な要素となりつつあります。本稿では、CCUS技術の概要から、関連する市場動向、国内外の政策、そして企業の導入戦略と投資の可能性について、ビジネスパーソンが理解しやすいように解説してまいります。

CCUS技術の概要:回収・利用・貯留の基本

CCUSは、「回収」「利用」「貯留」という3つの主要なプロセスから構成されます。

1. 回収 (Capture)

これは、工場や発電所などの排出源からCO2を分離・回収するプロセスです。様々な方法がありますが、代表的なものには以下のような技術があります。

DAC(Direct Air Capture)は、大気中の非常に低濃度のCO2を直接回収する技術であり、これも回収技術の一種と見なされますが、排出源から回収する技術とはアプローチが異なります。

2. 利用 (Utilization)

回収したCO2を、単に廃棄するのではなく、何らかの価値ある製品やエネルギーに変換して利用するプロセスです。CO2利用はCCU(Carbon Capture and Utilization)とも呼ばれます。

利用によりCO2排出量を削減または相殺できるだけでなく、新たな事業機会を生み出す可能性があります。ただし、利用によって固定される炭素量には限界があり、利用後再び大気中に放出される場合もあるため、その効果は慎重に評価する必要があります。

3. 貯留 (Storage)

回収したCO2を、大気中に放出されないように、地下深部の地層に安全かつ長期的に封じ込めるプロセスです。CCS(Carbon Capture and Storage)とも呼ばれます。

貯留は、適切な地層の選定、サイトの特性評価、圧入・モニタリング技術、長期的な安全性確保が重要です。

CCUSがもたらすビジネス機会と潜在的リスク

CCUS技術は、企業のサステナビリティ戦略において、以下のようなビジネス上の機会と潜在的なリスクをもたらします。

ビジネス上の機会

潜在的なリスク

これらの機会とリスクを十分に評価し、自社の事業特性や長期戦略に照らして、CCUSをどのように位置づけるかを検討することが重要です。

市場動向と将来予測

世界のCCUS市場は、脱炭素化への機運の高まりを背景に、急速な成長が見込まれています。国際エネルギー機関(IEA)などの予測によれば、今後数十年の間に、世界のCO2排出削減に貢献する主要な技術の一つとして、導入量が大幅に増加するとされています。

市場の成長は、各国の政策支援の度合いや、カーボンプライシング制度の導入・強化のペースに大きく左右される側面があります。

国内外の政策・規制動向

CCUSの導入・普及には、政府による強力な政策支援が不可欠です。世界各国で、CCUSを推進するための様々な政策や規制が整備されつつあります。

日本国内でも、政府はCCUSをカーボンニュートラル達成に向けた重要なオプションの一つと位置づけ、技術開発支援、実証プロジェクトの推進、法制度の検討を進めています。特に、商用化に向けた大規模プロジェクトの実現や、アジア地域でのCCUS導入支援を通じた貢献が期待されています。政策動向を注視し、自社の戦略にどのように活かせるかを検討することが、企業のサステナビリティ戦略責任者にとって重要です。

企業がCCUSを導入・活用する上での留意点と課題

企業がCCUS技術の導入や関連事業への参入を検討する際には、以下の点に留意する必要があります。

これらの課題に対し、計画的かつ総合的にアプローチすることが、CCUSプロジェクトの成功確率を高める上で不可欠です。

投資や資金調達の観点からの評価

CCUS関連技術やプロジェクトは、脱炭素化の重要な手段として、投資家からの注目も集めています。

企業のサステナビリティ戦略責任者は、自社がCCUSへの投資を検討する場合、あるいはCCUS関連事業への参画を検討する場合に、これらの投資家視点を理解しておくことが有益です。

まとめと今後の展望

CCUS技術は、カーボンニュートラル達成に向けた挑戦において、特にハード・トゥ・アベイト産業や既存の社会インフラの脱炭素化を可能にする重要な役割を担います。技術的、経済的、そして社会的な課題は依然として存在しますが、世界的な政策支援の強化や技術開発の進展により、その実用化と普及は着実に進んでいます。

企業のサステナビリティ戦略責任者の皆様におかれては、CCUSを自社の排出削減目標達成のためのツールとしてだけでなく、新たな事業機会の創出、サプライチェーン全体の脱炭素化への貢献、そして将来的なリスク管理の観点からも、その重要性を認識していただければ幸いです。市場動向、政策の動き、技術の進化を継続的に注視し、自社の長期的な成長戦略の中にCCUSをどのように位置づけるか、戦略的な検討を進めることが、未来の持続可能な社会を築く上で不可欠となるでしょう。

この分野への理解を深め、積極的に情報を収集し、必要な投資判断やパートナーシップ構築に進むことが、企業のサステナビリティと競争力を両立させる鍵となるはずです。